阿武町内で大人気。
“うもれ木の郷とうふ”とは
阿武町の宇生賀地区は四方を山に囲まれた盆地。大昔に火山の噴火によって湖ができ、その湖の跡が今では広々とした田んぼとして利用されています。この田んぼからときおり巨大な神代杉=埋もれ木が出土することから、宇生賀地区はうもれ木の郷を名乗っています。
この宇生賀地区でつくられるのが“うもれ木の郷とうふ”。口当たりが滑らかで、大豆そのものの香りと甘みが感じられることから町内外でも大人気です。ABUキャンプフィールドと隣接する「道の駅阿武町」でもヒット商品のひとつとなっています。
「昔は、どの家庭でもそれぞれ自家製のおとうふを作っていました。うもれ木の郷とうふは、地域の高齢の方たちに“畑のお肉”とも称されるたんぱく質たっぷりの大豆を食べてもらって、健康になってほしいという思いから始まりました。今でもその思いは変わりません。おとうふのお年寄りへの配達は、地域のコミュニケーションの一環としても機能しています」
そう話すのは、うもれ木の郷とうふの生産販売を行う「四つ葉サークル」の西村静江さん。サークルの設立に携わり、今もとうふづくりの中心人物として活躍されています。西村さんにとうふづくりの見学をお願いすると快く受け入れてくださいました。
作業が始まったのはすっかり日が暮れた19時すぎ。一昼夜水につけた大豆にさらに水を加えながらミキサーで潰していきます。使われる大豆は加工場の目の前で穫れた「サチユタカ」という品種。山口県で開発された食味にすぐれる品種なのだとか。
ミキサーにかけた大豆は、ひしゃくで一杯ずつすくいあげて沸騰するお湯を張った大鍋へと入れていきます。煮る時間はおよそ25分。一度に加えず、少しずつ加えていくのは焦げ付かせないためだそう。
「熱々の湯で煮詰める理由は、生の大豆に含まれている生臭さを取るためです。ただ、焦げてしまうとにおいが出て商品にならない。昔はよく焦がしてしまったものです。今でも気が抜けない作業ですね」と西村さん。
大豆に火が通ったら、今度は煮た大豆を機械で漉して豆乳とおからに分けていきます。大型の圧搾機に煮た豆の汁を入れ、圧力をかけて豆乳とおからに分けます。
とうふの元になるのは液状の豆乳。そこににがりを加えるとにがりに含まれる塩化マグネシウムがタンパク質を凝固させ、よく知るとうふの姿になるそうです。固まり始めのものをざるで掬えば”ざるどうふ”に、型に入れて軽く押しながら固めれば直方体のとうふになります。
豆乳を凝固させることは工場でつくられた塩化マグネシウムでもできるのですが、できるだけ地の物を食べてほしいという思いから、四つ葉サークルのみなさんは隣町の萩市から取り寄せた天然のにがりを使っているそうです。
「工場でつくられた塩化マグネシウムを使っているところもありますが、うちのとうふは、大豆、水、にがりのみで出来ています。天然素材しか使わないのは、大豆の味そのものを味わってほしいからです」と西村さん。
にがりを入れたことによって固まってきたとうふは、さらしを敷いた型に流し入れます。鍋底で表面を優しくならした後、上に重石をのせて1時間15分ほど置いて余分な水分を抜いていきます。
とうふが固まるのを待つ間、四つ葉サークルのみなさんは使った器具とおからを片付けます。もちろん残ったおからも捨てることはありません。そのままおからとして商品にするほか、乾燥させて粉砕したものは「おからパウダー」と、「おから餅」として販売されています。「おからパウダー」は、サラダや味噌汁に入れれば、手軽に食物繊維とタンパク質を摂ることができます。生のおからと違い、常温でも長期保存できるのが魅力です。
とうふが固まったら型ごと大きな水槽に浮かべ、型枠とさらしをそっとはずしていきます。水のなかですこしずつ裸にされていくとうふ。真剣かつ慎重な作業の様子に、見ているこちらも息を止めてしまいます。
「この型から外す瞬間が何度やっても緊張します。きれいなとうふができたときは思わず笑顔になってしまいますね」
崩すことなく型から抜ければ大成功。大きな板状のとうふを包丁でブロック状に切り出し、パックに詰めて封をしていきます。すべての作業が終わったのは深夜と呼べる時間帯でした。
「夜から作業をはじめるのは、つくりたてのとうふを朝いちばんにみなさんに届けたいから。食べる人のことを考えて、この時間にとうふをつくっています」
1回のとうふづくりで製造されるのはおよそ90~120丁。ラベルを貼られたとうふは朝早くから工場も構える宇生賀地域の家々や近隣のスーパー、道の駅阿武町などへと配達されていきます。
とうふづくりは、水商売
とうふづくりを終えた後、キャンプ場への期待を語ってくれました。
「見てもらった通り、とうふづくりの工程はご家庭の調理器具で再現出来て、どこでも、誰でも可能なんです。この集落の人もみな、ここで採れた大豆を使って家庭でそれぞれ当たり前のようにおとうふを作っていました」
家庭でも手軽に作れるとうふづくりは体験として地域の学生に教える機会もあったのだとか。
「キャンプ場が出来たら、おとうふだけを食べるということはなかなかない今の世の中で、”うもれ木の郷とうふ”の作り方をたくさんの人に知ってもらって、食べてもらって、そして皆さんに健康に暮らしてほしいと思っています」
最後に、とうふづくりが生活に根付く地域ならではの言葉を教えてくれました。
「この地域には、“とうふづくりは水商売”という言葉があります。おとうふを作るのに欠かせないお水に触れる機会が夜間にたくさんあるから出来た言葉だと思うんです。でもこの通り、豆乳に触れているからこそ赤切れもせず、化粧水要らずなんですよ」
そう言って少し恥ずかし気に差し出された手の甲は、大豆イソフラボン効果で肌ツヤ抜群でした。
最後に
お土産にいただいたとうふを、お鍋にしてみました。具材になったのはキジハタ、水菜、ネギ、シイタケなど。うもれ木の郷とうふをはじめ、すべて阿武町でつくられたものです。
だしが温まる間ももどかしく、つまみぐいしてみたのはうもれ木の郷とうふ。口に入れた瞬間、ぶわっと広がった大豆の香気に驚きました。すっごく、豆! 驚くほどの豆感。これまで食べてきた豆腐の数倍の濃度があります。飲み下してもなお、口中に残る豆腐の旨み。豆腐とは本来こういう食べ物だったのか、と感じいってしまいました。
阿武が誇る高級魚のキジハタと合わせたら、美味しいだろうなと思っていましたが、うもれ木の郷とうふは名脇役どころかお鍋の主役になってしまいました。
そんなうもれ木の郷とうふは道の駅阿武町や近隣のスーパーで購入可能。みなさんもぜひ”うもれ木の郷とうふ”をぜひ手に取ってみてください。
そして、ABUキャンプフィールドでは、四つ葉サークルのみなさんの協力を得て、阿武の海水と大豆から豆腐をつくるワークショップを企画しております。こちらもお楽しみに!
うもれ木の郷についてもっと詳しく知りたい方はこちらから→うもれ木の郷公式HP
edit&text:ABUキャンプフィールド兼、遠岳キャンプ場スタッフ 浅井一輝